カップスコアを静かに左右する、生豆の5つの指標
DiFluidによる実践ガイド
1ハゼの前に、生豆がカップを決めている
焙煎のトラブルシューティングは、たいてい逆の端から始まります。バッチがベイクした、焦げた、平板な味になった、あるいは袋ごとに味がばらつく。そんなとき、まず焙煎カーブを調整し、投入温度を変え、デベロップメントを延ばし、ドラムの中に原因を探そうとしがちです。原因が実際にそこにあることもありますが、そうでないことも少なくありません。
生豆は、固定された入力値ではありません。同じ品種、同じ産地、同じ精製方法のロットでも、含まれる水分量は異なり、密度も、豆のサイズも違い、保管中の安定性という時計の上でも、それぞれ異なる時刻を指しています。こうした違いの一つひとつが、豆の熱の受け止め方を変えます。測定していない生豆を固定のプロファイルで焙煎すれば、プロファイルは毎回、気づかないうちに違う結果を出します。ずれたのは焙煎ではなく、焙煎している豆のほうです。
解決策は、焙煎データを増やすことではなく、投入するものを知ることです。その情報の大部分は、生豆の5つの特性に詰まっています。どれも目には見えず、手触りでも推し量れません。ここでは、それぞれの特性が何なのか、焙煎の挙動をどう曲げるのか、そして値がずれたときにどうすればよいかを解説します。
1. 水分値
どんな指標か 豆の内部に含まれる水分の重量比です。生豆には吸湿性があり、保管されている間ずっと周囲の空気と水分をやり取りしています。そのため水分値は、ロット固有の値というより、今日の時点の状態を切り取ったスナップショットだと言えます。
焙煎への影響 水は、豆の熱の緩衝材です。ドライフェーズでは、風味を生むメイラード反応やカラメル化に向けて豆温度が上がる前に、まずその水を蒸発させるためにエネルギーが使われます。水分の多い豆は序盤により多くのエネルギーを吸収して温度上昇が停滞し、水分の少ない豆はドライフェーズを駆け抜け、内部のデベロップメントが不足したまま1ハゼに達します。水分値が変動しているのにいつものプロファイルを使い続ければ、ダイヤルに触れないまま実質的に焙煎を変えていることになります。あるバッチはベイクし、次のバッチは走りすぎる。焙煎中に修正して追いつこうとしても、たいていの場合、ダメージはすでに生じています。
目安の値 安定していて焙煎に適した生豆の範囲として広く認められているのは、10〜12%前後です。多くのロースターは、その中央を狙います。大切なのは数値そのものより、その値を把握し、ロットごとに追跡することです。
ずれたときに起きること おおよそ12〜12.5%を超えると、保管中のリスクを抱えることになり、ドライフェーズも鈍く、むらが出ます。9〜10%程度を下回ると、豆はもろく乾燥しすぎた状態になり、速く、中身のない焙煎になりがちで、酸が沈んだ、紙のような平板なカップになりやすくなります。ずれは供給元でも起こります。価格の高い年には農園で手間をかける動機が薄れ、合意した11%に対して13〜14%と、契約仕様を上回るロットが届くことがあります。保管リスクを抱えるうえ、想定していたのとは違う焙煎になります。それを見つけるには、到着時に測定することです。その際、水分値の数値が実際に何を表しているのかを知っておくと役立ちます。
ラボが基準値として扱う水分値の正攻法は、サンプルを計量し、水分が抜けるまで加熱乾燥させてから、もう一度計量する方法です。減った重量がそのまま水分量です。最も正確な方法ですが、時間がかかり、サンプルも失われるため、すべてのロットで行うのは無駄が多く、必要もありません。Omix Plusをはじめとするより速い測定器は、別の方法で同じ答えにたどり着きます。水は乾燥した植物組織よりもはるかに強く電場に反応するため、弱い電場に対する豆の反応をサンプルの重量とあわせて読み取れば、乾燥法の結果とよく一致する値が得られるのです。表示される数値は、その基準値を慎重に推定したものであり、それとは別の独立した事実ではありません。だからこそ、信頼できる2台の機器が同じコーヒーでわずかに異なる数値を示すことがあり、それはどちらかが故障しているということではありません。それぞれが同じ基準に対し、独自の方法と条件で校正されているため、絶対値は方法によって少しずれることがあるのです。これはラボ用の機器に至るまで、水分測定に共通する仕組みです。どの測定器も水を直接読み取っているのではなく、合意された一つの基準値に近似しています。ですから、信頼すべきなのは、自分の機器が他人の機器と一致するかどうかではなく、自分の測定値が時間を通じて一貫しているかどうかです。同じコーヒーを同じ方法、同じ測定器で測れば、ロット同士を比較できるようになります。焙煎の判断が実際に拠って立つのは、この比較です。Omix Plusが目指すのは、まさにこの一貫性です。速く再現性のある水分測定で、乾燥法の基準値に対して±0.1%、繰り返し測定でも±0.1%の安定性を保ちます。

2. 水分活性
どんな指標か 豆に含まれる水の量ではなく、そのうちどれだけの水が化学的に自由な状態にあり、微生物の増殖や化学反応に使われうるかを示します。0から1のスケール(aw)で表され、水分値とは別の問いに答える指標です。水分値が同じ2つのロットでも、水分活性は大きく異なることがあります。
焙煎とカップへの影響 生豆がどう劣化するか、保管中にどれだけ安定しているかを予測するには、水分活性のほうが優れています。自由水は、数か月かけてコーヒーの風味を平板にする緩やかな化学反応と、コーヒーを傷める微生物の活動の燃料になります。水分活性が高めのロットは、水分値だけから想像するよりも早くトップノートを失い、劣化します。つまり、購入したときのロットと、3か月後に焙煎するロットは別物です。
目安の値 実用上、安全に保管できる上限は0.60 aw前後です。品質を重視するバイヤーの多くは、0.50〜0.55程度を、コーヒーをピークの状態に保つための最適な範囲としています。この安全な範囲の上のほうを選ぶ理由は、保管だけでなく風味にもあります。自由水が多いほどメイラード反応やカラメル化が進みやすく、甘さ、酸、ボディが保たれやすくなります。そのため、上限近くで保たれたコーヒーは、乾燥しすぎて値が下がったロットよりも、丸みがあり複雑なカップになることがよくあります。ただし、この関係は直線的ではなく、上限を超えればその利点は失われます。
ずれたときに起きること 0.60〜0.65を超えると、微生物のリスクが急激に高まり、劣化も速まります。コーヒーは目に見えない時計の上で時を刻み始めます。0.40を大きく下回ると、たいていは乾燥しすぎて枯れたロットで、香りはすでに失われています。酵素活性が実質的に止まる水準です。
ここで注目したいのがレポソです。レポソとは、精製後、脱殻・出荷の前に生豆を休ませる期間のことで、水分値と水分活性が不安定なまま産地を離れるのではなく、落ち着くのを待ちます。最近の高地での研究では、ボリビアの1つのロットを半分に分け、一方を標高4,100 mで8週間休ませ、もう一方をすぐに出荷しました。数年にわたって追跡した結果、休ませたロットは水分活性がより安定し、保管環境の変化にも明らかに影響されにくいままでした。一方、休ませなかった半分は、乾燥した冬のあいだに最終的に0.40 awを下回りました。提唱されている仕組みは単純です。空気が薄いと酸素が少なく、生きている種子の呼吸と、種子を老化させる緩やかな自己消費が遅くなるのです。すでに倉庫にあるコーヒーをレポソさせることはできませんが、入荷時と保管中に水分活性を測定すれば、どのロットが安定していて、どのロットの時計が速く進んでいるかがわかります。
Omix Plusは、鏡面冷却式露点法で水分活性を測定します。ラボの基準機器と同じ、AOAC認証を受けた国際的にトレーサブルな方式で、精度は±0.01 aw、再現性は±0.005、約30秒で結果が出ます。飽和塩による校正が正しく行われていれば、測定値は0.745〜0.755になります。
3. かさ密度
どんな指標か 一定の体積の豆にどれだけの質量が詰まっているかを示す値で、グラム毎リットル(g/L)で表します。豆そのものの密度と、豆同士の詰まり方の両方を反映します。大まかな目安として、栽培標高や豆の硬さと連動します。高地で育ったコーヒーほど密度が高く硬く、構造が崩れにくい傾向があります。
焙煎とカップへの影響 密度は、熱が豆の内部へどう伝わるかを決めます。密度が高く硬い豆は熱を伝えにくく、芯まで均一にデベロップさせるにはより多くのエネルギーと時間が必要です。熱が足りなければ、表面は濃く焼けても内部は生のまま。青臭い芯の外側にティッピングやスコーチングが出る、典型的なパターンです。密度の低い豆は熱を速く受け取り、目標を簡単に通り越して、ベイクした、くすんだ味に傾きます。デカフェを見ると、その影響がよくわかります。カフェイン除去の工程で豆は膨張してから収縮し、密度が上がる一方で、傷ついた不均一な多孔構造が残ります。そのため焙煎の序盤は高密度のコーヒーのようにふるまいますが、途中でその構造が崩れ、低密度のコーヒーのように速く仕上がります。焙煎の進行に合わせて、ガスの操作を変える必要があるのです。
目安の値 生豆のかさ密度は一般に600〜720 g/L前後で、硬い高地産のロットほどこの範囲の上のほうに位置します。目指すのは、すべてのロットを1つのプロファイルで焙煎するのではなく、各ロットの位置を把握し、豆に合わせて熱のかけ方を変えることです。
ずれたときに起きること 密度の高いロットをいつもの生豆と同じように扱えば芯のデベロップメントが不足し、軽いロットを同じように扱えばベイクします。カップは青臭く尖った味か、平板で生気のない味になります。どちらも、焙煎のばらつきという衣装をまとった、熱管理の問題です。
Omix Plusは2つの密度を表示します。かさ密度はわかりやすいほうで、サンプルの重量を容器の体積で割った値です。豆の詰まり方を表し、熱を加えたときに実際に相手にする特性です。真密度は求めるのがより難しい値です。Omix Plusは詰めたサンプルを撮影し、モデルを使って豆と豆の間の空隙を検出して差し引き、残った部分、つまり豆そのものの密度を表示します。この値は水置換法の基準値に合わせてモデル化されており、生豆では一般に1000 g/Lを超えます。2つをあわせて読むと、それぞれ単独よりも多くのことがわかります。かさ密度は焙煎の方針を決め、かさ密度と真密度の差は、豆の多孔性と膨らみ方を反映します。また、密度と水分値の推移を追うと、水分計だけでは区別できない2つの現象を見分けられます。水分値が下がって密度が上がれば、豆は単に水分を失っているだけです。水分値が下がっても密度が変わらなければ、生きている豆が自らの貯蔵成分を消費しています。これこそ、生豆が表面からだけでなく内側から老化することを確かめるために、レポソの研究者たちが用いた指標です。
4. 豆のメッシュの分布
どんな指標か ロット内の豆のサイズのばらつきで、従来はふるいのスクリーンで測定します。重要なのは平均サイズだけでなく、豆がその周りにどれだけまとまっているか、つまり分布の幅です。
焙煎とカップへの影響 ドラムは、中にあるものすべてに同じ熱環境を与えますが、小さな豆と大きな豆は同じようには反応しません。サイズが混在すると、同じバッチの中で焙煎の進み方が変わります。小さな豆は先に進んでスコーチのリスクを抱え、大きな豆は遅れてデベロップメント不足のまま残ります。結果として、1回の焙煎が実は複数の焙煎の寄せ集めになり、カップはそれらが平均された濁った味になります。風味がぶつかり合い、後味はクリーンさを欠き、酸とボディもかみ合いません。足並みのそろわない豆の集団は、完璧なカーブでも救えません。
目安の値 豆のメッシュの絶対値は産地や等級によって異なり、それ自体は重要ではありません。重要なのは均一性です。分布が狭ければ均一に焙煎でき、広ければ、どれほど優れたプロファイルでも思いどおりにいきません。サイズが明らかに2つの山に分かれている場合、確実な解決策は、選別してそれぞれを別々に焙煎することです。この問題はブレンドでも表面化します。コストを抑えるために同じ産地の中で下位の等級に置き換えると、サイズの混在が気づかないうちに広がり、焙煎のばらつきも広がります。
ずれたときに起きること ロットごとに広がっていく分布や、「単一」等級のはずが実は混ざっているロットは、クリーンに仕上がらない焙煎と、いつまでもまとまらないカップとして現れます。測定しなければ、サイズの問題ではなく、原因不明の品質問題に見えてしまいます。
Omix Plusは、豆の短径の画像で学習したディープラーニングモデルにより、豆のメッシュを分布として表示します。実際のふるいの値が表示範囲内に収まることが検証されており、3回測定しても同じ結果が得られる再現性があります。
5. 焙煎色度:生豆の姿がついに現れる場所
どんな指標か Agtronスケールで測定する色を、単一の数値ではなく分布全体として、生豆ではなく焙煎後の豆で読み取ります。5番目の指標なのは、前の4つの結果がここに集約されるからです。生豆のばらつきが焙煎に及ぼす影響は、最終的にすべて色として表れます。デベロップメントがどこまで進んだか、そしてバッチ全体でどれだけ均一に仕上がったかです。
重要な理由 平均の色という1つの数値は、本当に知るべきことを隠してしまいます。それは、豆が そろって焙煎されたかどうかです。2つのバッチの平均Agtron値が同じでも、一方は均一で、もう一方は焦げた豆とデベロップメント不足の豆が混ざり、たまたま同じ平均に落ち着いただけ、ということがあります。このばらつきは、測定されなかった生豆の指紋です。投入した生豆の水分値、密度、サイズのばらつきが大きければ、焙煎後の色の分布も広がり、カップは濁ります。表面だけではわかりません。健全なコーヒーでは、ホールビーンの色と、挽いた内部の色が近い値になります。両者の差が大きいのは、外側が内側より先に進み、内部のデベロップメントが不足しているということで、カップは明るさの代わりに渋みを帯びます。より大きな焙煎デルタを狙って焙煎を速めると、その差は広がります。ホールビーンと粉の両方で色を分布として読めば、焙煎の一貫性を、後から味見で確かめるものではなく、検証できるものに変えられます。
目安の値 スペシャルティコーヒーの焙煎は、一般にAgtron 70〜150の範囲に収まります。コーヒーごとに自分のデベロップメントの範囲を狙いましょう。行動につながるシグナルは、教科書的な単一の数値ではなく、分布の 幅 、ホールビーンと粉の差、そしてその両方がバッチごとにどれだけ安定しているかです。
ずれたときに起きること 分布が広がったり、ホールビーンと粉でピークがずれたりするのは、焙煎むらのサインです。その多くは、焙煎前に測定しなかった生豆の指標にそのままさかのぼれます。生豆の段階で気づけば、焙煎の準備段階で判断できます。ここで初めて気づいたなら、それはすでにコストをかけて焙煎してしまったバッチです。
Omix Plusは近赤外線の2Dイメージングで色を読み取り、基準となる色度計と同じAgtronスケールのヒストグラムとして、焙煎したホールビーンと粉の両方を±0.5の精度で表示します。これで、投入する生豆から焙煎後の豆までがひとつにつながります。
焙煎の前に、生豆を読む
ここまでの話は、焙煎の仕方を変えることを求めるものではありません。求めているのは、投入する生豆が日ごと、月ごと、年ごとに同じだと思い込むのをやめることです。ここで挙げた情報はすべて、生豆がすでに持っているものです。問題は、それを焙煎前に読むのか、それとも焙煎中や焙煎後に、狙いどおりにならなかったカップから逆算するのか、それだけです。
これらの測定が省かれがちなのは、重要性が疑われているからではありません。手間がかかるからです。水分値、水分活性、密度、豆のメッシュ、色は、かつてはそれぞれ別の測定器が必要で、サンプルの準備も校正も個別に必要でした。そのため、生豆のチェックはいつの間にかリストから消えていく工程になっていたのです。
Omix Plusなら、1つのサンプルから1回ですべてを測定できます。
手元にあると思っている豆ではなく、実際に手元にある豆を焙煎しましょう。